こんにちは。神奈川・相模原の里山で自然農を営む「すどう農園」です。日本の伝統的な野菜の背景について書いてある本を紹介して欲しいというリクエストを「さとやま農学校」の受講生さんから頂きました。在来種というよりも、古来種とでも言いましょうか。いま日本の食卓で大きな役割を果たしているトマトやジャガイモなど新大陸起源の野菜がヨーロッパ・中国経由で渡来するより遥か昔、日本列島の野菜の姿は、限りなく野草に近いものでした。まさに「野の菜」であったわけです。
今では野菜どころか雑草とまで思われているような植物を人々は食事に取り入れていたのです。今もたとぺば七草がゆなどにそうした由来が伺えますね。野にあるものを食べるというのは、誤解されやすいのですが、それは決して貧しいということでなく、むしろ対極的な豊かさの象徴であったと思います。身の回りに萌えてくる旬を最適のタイミングで摘んではアクを抜き、食べる、余れば保存をしていく。蓄えるというよりも、あくまでも保存です。どう違うかというと、「蓄える」行為とはつまり、余剰が富につながるわけですね。米や麦や大豆などの穀物がまさにそうです。余剰をどれだけ持っているかで貧富の差、強いものと弱いものが分断されていく。権力が生まれる。ところが保存は、あくまでも保存に過ぎません。漬け菜を蔵一杯に蓄えてもたかが知れていますから。
ではリクエストにお応えして以下の二冊を紹介します。著者の青葉高先生(故人)は在来野菜のメッカである山形で研究をなさっていました。ご研究は万葉の昔にまで遡ります。この本を読むと、いま農学校で邪険にしているギシギシ(羊蹄)などもかつては食事に供されていたことが分かります。もちろん微妙な旬と食べる部位を認識し、さらにアク・エグミを抜く方法をきっちりわきまえていたのでしょう。あく抜きができたのは長時間のさらしができる水に恵まれた日本の風土にも拠ります。
①「野菜 在来品種の系譜 ものと人間の文化史43」 青葉高 法政大学出版会
②「野菜の日本史」 青葉高 著作選Ⅱ 青葉高 八坂書房
①の法政大学出版会の「ものと人間の文化史」はシリーズ全部読みたくなりますね。図書館にはたいていありますので、冬の読書にどれか一冊でもお楽しみください。②の八坂書房は植物民俗学のジャンルに強い出版社です。手仕事など好きな人はカタログを取り寄せるといいでしょう。
さとやま農学校2024
来年で11年目になる「さとやま農学校」は、自然農の野菜作りがベースになりますが、できるだけ上に書いたような「野菜と人間の原点」が伺えるような講座にしていきたいと思います。都会の貸し農園や平野部の畑では味わえない多様性のある農的世界を味わってください。効率一辺倒の都会とは違う世界が実はとても豊かであることを五感で知って欲しいと思います。