サトイモに想う、日本という国のカタチ

さとやま農学校

アッと言う間に冬の気配で、サトイモの収穫が間近に迫ってきました。
10月でもサトイモはできているのですが、やはり11月になってからキリッとした寒さが来てくれた方が味わいが乗ってくるのですね。

もともとサトイモは南の島々の食べ物です。「世界4大主食」というのがあるのですが、皆さん分かりますか?コメ、ムギ、トウモロコシ、そしてこのサトイモの仲間たちなのです。
コメの起源は諸説あるのですが、だいたい東南アジアからインドのあたり、そしてムギ(コムギ)は、チグリス・ユーフラテス流域、トウモロコシはアメリカ大陸、そしてサトイモたちは南太平洋の島々が故郷と言われています。でもそんな故郷を忘れてしまいそうなほど、日本の冬の食卓の主役級になりましたね。

サトイモは育て方がとてもシンプル。これが素晴らしい。
冬のうちに地ごしらえをしっかりやっておき、夏は乾燥しないように草と共生をさせる。
堆肥や肥料は上げないほうが素直な味わいになります。だからコメやムギが取れないときの備蓄食にもなりますね。畑のどこかに必ず作っておきたい。

これほどシンプルであるがゆえに、そのシンプルさが仇になって、サトイモは日本で、というか現代社会で主食にならなかったのかもしれません・・・どういう意味か、説明します。

まず数千年前から日本の主食となっているお米とムギを考えましょう。そのまえに、忘れがちなことですが、日本中でお米が主食になったのはあくまでも戦後のことです。それ以前あるいは戦後になっても、日本の国土の大半を占める中山間地では、お米は貴重なものでしたから、日本人の食事は麦や雑穀、芋などを組み合わせて作られてきました。だから私が田舎暮らしを始めたばかりの頃は、年配の方であれば夕飯は必ずウドンという方も珍しくなかったものです。「米では力が出ない」と聞いてカルチャーショックを受けました。

かたやお米は、綺麗にならされた平野部の水田という社会インフラを必要とします。資本と労働力が必要なのですね。道路づくりと同じです。そうしてできた水田から、国は税として年貢を徴収します。税を取る側からすれば水田とは便利なものです。収穫期の水田を見ればすぐに、どこからどれほどの年貢が取れるか予測できます。そして水田は集団で管理するものですから、おのずと共同体も上意下達で管理しやすい。かつ当たり前のことですが、水田を持って夜逃げすることは不可能です。まさに不動産なのですね。麦もお米ほど水を必要とはしませんが、収穫から製粉に至る技術インフラは必要ですし、小麦の備蓄はすなわち資本の蓄積につながるという点ではコメに共通します。中世にあっては麦を製粉できるのが、ヨーロッパでは教会であったり、日本や中国でも限られた人間だけが製粉という大事な部分を握っていたことからも、コメやムギなどの穀物は、権力が握っていたと言えるでしょう。言い換えればコメやムギがあればこそ、富の蓄積が可能になって、そこから貧富の差を広げて、富める者が権力を持つようになった。最近の研究では、権力者にとってコメとムギが都合よい作物であるがゆえに、世界の大半がコメもしくはムギを主食にするようになったのだという人類学の考え方もあるようです。たしかに、栄養面や味の良さなどの理由だけでなく、加えて「管理しやすい主食作物」という側面は大きいでしょう。コメとムギがあればこそ地上に資本主義が生まれたと言ってもいいのではないでしょうか。

そこでサトイモに戻ります。
サトイモ栽培の仕組みは実に簡単です。地面に棒で穴をあけたら種イモを放り込んで土をかけるだけで良いのです。
山すそだろうがどこだろうが、あっちに少し、こっちに少しと気の向くままにグサグサ穴を開けてイモを放り込んでしまえば、どこにどれだけのサトイモが収穫できるか、これは作った本人にもわからない。しかもサトイモは腐りやすいから保存がきかないので蓄積ができません。これでは資本主義にならないのです。水田のような不動産でもないので、いざとなったら種イモを抱えて逃げてしまえばいい。
実際に沖縄から南の文化圏は、日本本土のような農耕文化圏と対比させて「移動分散型」社会と称されます。私が好きだった故・鶴見良行さんは東南アジアをフィールドにしたご著書で「とりとめのない社会」という表現をされていました・・・なんと素敵な響き!

「とりとめのない世界」に憧れ続ける私は、いまこうして10月のサトイモ畑に立ちながら、うつらうつらとイメージするのです。里山の至るところに少しづつ、想うがままに、あちらにこちらにザワザワと、サトイモが育っている姿。食べたいときに誰かがやってきて掘って、また誰かが種イモを植えて、いつもどこかでサトイモが育っている、そんな風景。さすがに冬には無理なので、あくまでイメージとして。

焚火でサトイモを食べる・さとやま農学校2024説明会

さて、この愛すべきサトイモは、もちろん煮ても炊いても美味しいものですが、しかし。
焚火で焼いた「石焼きサトイモ」も、実に実に美味なのです。
さとやま農学校」でも、皆さんと収穫したサツマイモやサトイモを、焚火で調理して一緒にいただきます。みんなで作ってみんなで食べるというのは、農の原点です。
今年の「さとやま農学校2024コース説明会」でもサトイモを含めた焚火での野菜を食べていただきたいと思っています。どうぞご期待ください。ここ数年コロナ過で思うように外出できなかった方も「今年こそは!」と決意されている方も多いことでしょう。どうぞ、お越しください。

さとやま農学校2024コース説明会






タイトルとURLをコピーしました