「あの子たちは心配ない。世間に迷惑をかけても生きていけるから」
~マイ・ディア・ミスター・私のおじさん
四十を過ぎてまともに仕事もできないどころか家庭も崩壊した「元高学歴のクズ息子二人」を母親が罵倒したあとの独り言。この韓流ドラマは名セリフのオンパレードだけれど、なかでもこの一言が一番沁みた。
娑婆を生きていくというのは、大なり小なりお互いに迷惑をかけていくことだ。そうして、迷惑をかけても生きていけるというのは、周囲で舌打ちしたり眉をひそめたりしながらも、椅子に座らせてくれる世間があるということだ。そしてたぶん韓国でも、そんな世間は減っているのじゃないだろうか。
韓国に初めて行ったのが80年代のチョンドファンの軍事政権下で、アジア大会とオリンピックを控えて夜間外出禁止令が解除されて間もない頃でした。まだ外国人のツーリストにはガイドが付くことが義務付けられていて、飲み屋を探して裏通りに入ると、おじさんたちが路上で鍋をかけて何かの肉をグツグツ煮込んで焼酎を交わしていた。あんな光景はもうないのだろうなあ。
ドラマに出てきた名優ぞろいのなかでも、兄の役の俳優さんが一番良かった。
「いつかおじさんだけのムラをつくる。みんなでラーメンを作って食べるんだ」
酔歩蹣跚(すいほまんさん)の足取りでつぶやくシーンの背中がチェーホフみたいに愛しい。ラーメン食って迷惑かけあって、そんな関係があるなら、とても良いな。
自分はどうだろう?